ジェローム・デュポン(Dupont/シードル/フランス)

ジェローム・デュポン

The Louis Dupont Family ESTATE
 
フランス北東部に位置するノルマンディ地方。おそらく誰でも知っているであろう名物は世界遺産モン・サン・ミッシェルとチーズのカマンベールであろう。そしてワイン大国フランスでありながら実はリンゴの蒸留酒カルヴァドス」がAOC(現産地呼称)に指定されている一大リンゴ産地でもある。
 
その名の通りデュポン家は1887年から続く家族経営のリンゴ農園およびカルヴァドス生産者の名門で、来日したジェロームBFMのジェロームとはもちろん別人)は7代目にあたる。物腰は柔らかだが、こちらが質問すれば的確でわかりやすい説明の中からもパッションがにじみ出ているのがわかる。
先にリンゴの蒸留酒と書いたが正しくはリンゴ酒、つまりシードルを蒸留したものがカルヴァドスになるのである。ということは開業当初からシードルを造っていたということになるが、これを商品化して売り出したのは1980年、ジェロームの祖父の代からである。
日本のシードルは主に’ふじ’や’紅玉’といった生食用のリンゴを使うのに対し、欧米ではシードル用のリンゴを栽培、醸造するのが一般的である。
そのリンゴは、ジェロームの指定規から推測するに直径6~7㎝ほどの小ぶりなもので、タイプはスイート、ビター、ビタースイート、サワーの4つに大別される。これを30ヘクタールの自社畑と契約農家(30%ほど)の50品種近いリンゴの中から造りたいシードルのタイプによってチョイスする。
基本的にリンゴは果皮に天然酵母がついているし、果肉には糖分が含まれているので自然発酵が可能な果物ではある。ここに家業のカルヴァドスとワイン大国の産物を使ってフツーのシードルを+2にも+3にも昇華させているのがデュポン流のシードルなのである。
 
Cidre Dupont Reserve」はまさにお家芸。ステンレスタンクで自然発酵させた後、カルヴァドスを熟成させていた400Lの樽で6ヶ月、澱引きせずに熟成させたもの。まるで発泡したカルヴァドスを飲んでいるかのような芳醇さである。
Cuvee Colette 」はシャンパーニュ方式を踏襲している。ステンレスタンクで自然発酵の後ボトルに詰めて糖分、少量のカルヴァドスとともにシャンパ酵母を添加、パレットにボトルを逆さに差し、少しずつ回して口元に澱を溜めていきながら発酵を続ける。溜まった澱が取り除かれるのは(最低でも)6ヶ月後だ。なんとも手間と時間がかかる作業なのである。シャンパ酵母ならではのエレガントな泡は美しい。
 130年の歴史が育むたっぷりとした余韻がその泡とジェロームの横顔にリンクした。(2016年5月来日) 
 
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