ジェローム・レペーテ(BFM/ビール/スイス)

ジェローム・レペーテ

BFMBrasserie desFrenches-Montagnes
 
大柄な男、ジェローム・レベーテが再び来日した。
彼のブルワリーはスイスのジュラ州にある。フランスのジュラ地方とは地続きで、広いジュラの真ん中に国境を引いたようなものだ。言語は当然フランス語であるが英語はもちろん、スイスの他地方の公用語であるドイツ語、イタリア語に加えスペイン語も流暢に話す。そして3度目の来訪であるこの国の言葉(つまり日本語)も独学で覚えてきた。我々の頭の中で「てにをは」を少し直すだけで十分通じるレベル。恐ろしく語才に丈けた男なのである。
ブルワリー設立以前はスイスのワイナリーに勤めていて(あまり知られていないかもしれないがスイスもワイン造りは盛ん)、フランスのボルドーやスペインのプリオラートなど世界中の銘ワイン処を巡ってきている。当然ながらワイン造り、つまりは醸造のノウハウは知り尽くしているのである。
「そういえばスイスには美味しいビールがない、ならば僕がスイスのクラフトビールのパイオニアになってやる」そう思い1997年に設立した。
 
フラッグシップはバレルエイジドのサワーエール「Abbaye de Saint Bon-Cien
通称ボンシャン(発音によってはボンシェン)である。スイスのワイナリーから譲り受けた赤ワイン樽(ピノ・ノワールメルロー、シラー)で1年熟成させてからブレンドしたビールだ。このビールの大きな特徴は熟成過程においてフロール(産膜酵母)を生成させることである。フロールとは液体の表面を覆った白い膜のこと。液面が空気に触れないので熟成がゆっくりになったり、(酵母であるので)液体に残っている糖分を食べ続けてドライな仕上がりになったりと、このフロールの果たす役割はいろいろあるが「独特の風味」と微妙に表現される香味成分(エステルなど)が生成されるので、ノーマルのスティルワイン造りにおいてはタブー視される傾向にある。例外はシェリー酒やヴァン・ジョーヌ(フランスのジュラ地方で造られる黄ワイン)、イタリア(サルデニア島)のヴェルナッチャ・ディ・オリスターノなどの特殊なワインで、アーモンドなどのナッツ系、オイル、グレープフルーツなどの香りが複雑に絡み合う長期熟成型のワインである。
ワインを知り尽くした男、ジェロームはこれを巧みに応用したのだ。先のナッツやオイルに加え、エナメルのような香りも重なりあって、なんとも形容し難い複雑味と旨味がある。アルコール度数は11%、ヴィンテージ表記もある。我が家にある1本はしばらく寝かせておくことにしよう。
 
現在このボンシャンのほか18種類のビールを1800㎡のブルワリーで造っているが、ここの要のひとつであるワイン樽も400本を超え、かなり手狭になってきたため目下のところ拡張中である。フランス人、ドイツ人、2人のアメリカ人のブルワーが働いていて、ジェローム自体は直接作業することは少なくなったが、次に造る新しいビールは彼の頭の中でせっせと仕込みが始まっている。(2016年5月来日)
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